やきもち


「やきもち?」
 賢者様はやきもち、というものはしないんですか? 純粋な眼差しで首を傾げるリケに、おれはオウム返しにしながら同じ角度に首を傾げた。小さくうなずくのに合わせて金糸の髪がきらきらと揺れるが、彼の言葉の意味を把握しきれているのか不安になる。
「えっと……」
「賢者様は、クロエと好きあっているのでしょう? クロエが、賢者様と一緒にいるのに他の人の話をしたとき、むっとしたり、嫌な気持ちになることはありませんか?」
「……えーと……」
 なんと返したらいいんだろう。ここまで具体的に聞いてくるということは、リケが実際にやきもちを焼いた経験があってそれについて悩んでいるか、他の誰かがリケにそういう話をしたかのどちらかだとは思うんだけど。もレリケが――例えばミチルとの関係性に悩んでいるのであれば、おれに助けを求めているのであれば。自分にできる範囲のことはしたい。そう思ってやや遠回しに尋ねようとしたら、「いまは僕の話をしているのではありません」ときっぱり言い切られてしまった。リケは鋭い。
 ひとまずリケが悩んでいる訳ではないらしいので、そこは安心しつつ聞かれた内容を真面目に考えてみる。
「うーん、ばっと思いつく範囲では、ない、かな……?」
 腕を組んでしばらく考えてみたけど、言われてみればクロエの話に出てくる誰かや何かに対してやきもちをしたことは、たぶん、ない。……たぶん、だけれど。
「そうですか。それならば、良いのです」
 リケはうなずいて、それ以上追及することもなくあっさり引き下がった。
「なんでやきもちやいたことがあるかって聞いたの?」
「……ほかの人には内緒にしてほしいのですが……。僕は以前、やきもちを焼いてしまったことがあって。ルチルに相談したら、その気持ちは、僕がそれだけその人を大好きな証拠だと聞いたので。もし賢者様がお困りなら、同じように教えて差し上げようと思ったんです」
「リケ……優しいね……」
 じーんとしてしまった。やきもち。おれが今までのその感情にまつわる出来事を思い出しても、リケのような柔らかい気持ちになれる気もしないのに…。
 思ったままに呟いたおれの言葉を聞いて、いつでも僕に相談してくださいね、なんて誇らしげに胸を張るリケはとてもかわいくてかっこよくて、頼もしかった。

2020/10/07