クロエは小さくても大きくてもかわいいよ


「はわ……」
 おれは、ソファの上でめちゃめちゃうろたえていた。昼寝から目覚めたらなぜかクロエが子猫ぐらいの手乗りサイズになって、おれの周囲を元気に遊びまわっているからだ。しかも、いっぱいいる。たぶん十人ぐらい。いっぱいいるうえに着ている服はそれぞれ違うのだから、彼のオシャレ精神は小さくなっても変わらないのだなと舌を巻く。
 彼ら? はおれの頭によじのぼったり、ソファを滑り台にしたり、丸まって寝たり、ミニチュアサイズの裁縫をしたりと思い思いに過ごしている。
「めっっっちゃかわいい……」
 思わず神に祈りをささげた。おお小さき命の神よ、きょうもせかいはうつくしい。等身に比例して短くなった手足の、小動物然とした動きがかわいくて仕方がない。おれは基本的には大きい動物の方が好きだけど、小さい動物はそれはそれで好きなんだ。大きい動物は世界に占める体積がその分大きくていいけれど、小さい動物はその分小さい体にいのちがぎゅっと詰まってるんだ。
 なんてことを考えていると、おれの頭によじ登っていたクロエのうちの一人――祝祭の時の格好をしている――がバランスを崩した。
「うわっ?!」
 幸いにもおれの目の前に落下してきたので、とっさに手をだしてキャッチすることができた。
 祝祭のクロエは何が起こったのかわからなかったようできょとんとしていたが、ずれた帽子を直してあげるとこちらを見上げてにっこり微笑む。
「ええ……かわいい……かわいいね……」
 フリルがふんだんにあしらわれた服でおじぎをしている。一挙手一投足が逐一かわいい。おれは、おれはもうダメだ。

 と、というところで目が覚めた。もちろん小さくなって増殖したクロエはいないけれど、おれの肩にもたれかかったクロエが寝息を立てている。おれと彼の膝にはブランケットがかけられていたから、きっと彼が気をきかせて持ってきてくれたのだろう。
「……夢か……」
 ぼんやりそう呟きながら、じわじわ何の夢だったんだあれ…という感情が湧いてくる。小さいクロエはかわいいけど、いまの大きいクロエもそれだけでかわいいが?!
 無意識のうちにギャップ萌えを求めていたんだろうか……とも考えてみたが、やっばりよくわからなかった。

2020/10/13