「けーんーじゃちゃんっ」
鈴を転がすような笑い声とともに、背中に軽い衝撃が加わった。
「ホワイトちゃん?」
「ほほ。そうじゃよ」
ベンチに腰かけていたおれに、背後から忍び寄ってきたホワイトが抱き着いてきたのだ。声は出なかったものの驚きで肩が跳ねたのは伝わったのか、いたずらが成功した子供のように笑う声が耳元でする。
「何をしておったんじゃ?」
「本……を読もうとしたんだけど、頭パンクしそうになったからぼーっとしてた」
おれの手にあるのは児童文学書。絵本程度ならスムーズに読めるようになったからと、ルチルから借りたものだ。ミチルが好きな本らしく、早く賢者様の感想が聞きたいです! と楽しみにされている。されているのだが。
「言い回しが絵本とはまた違うから、わからないところがちょこちょこ出てきちゃって……」
「ほほう、じゃあ、我はいいところに来たってことじゃな」
「わーん、教えてホワイトせんせえ」
「ほっほっほ。そうじゃ、存分にホワイト先生に頼るがよい」
最初はおれが読み上げて、詰まったらホワイトが教えてくれる、という流れだったのだが、途中から半分くらい読み聞かせになっていた気がする。
これがホワイトの甘やかし術……! と半ば戦慄してしまう。甘やかし上手かつ甘え上手な双子の孫みがあふれるおじいちゃん。属性は盛りすぎなはど盛っているのだが、バランスがめっちゃうまいのだ。なので今回みたいにわからないときだけ教えてもらう、という話だったはずなのに、いつのまにか読み聞かせに変わっていたりする。
音と文字を結びつなげる行為は大きな意味があるらしいので、まったく勉強になってないなんてことはないだろうが。
「ありがとうホワイト。すごく助かりました」
「よいよい、このぐらいお安い御用じゃ。……ところで賢者ちゃん、この後って時間ある? 我、ちょっとおやつが食べたいな?」
「……えーと、シナモンチュロスでいい?」
「やった! ありがと、賢者ちゃんっ」
にこにこでおれの手を取り立ち上がらせる。こういうところが、彼の甘え上手なところだなぁと思う。おれがいつも頼りっぱなしというのもあるけれど、彼とその片割れにお願いされて断るすべをおれは知らないし、もし仮に知っていたとしても断ることはないだろう。
2020/10/15