「よし! じゃあおさらいだ直隈。これは何て書いてある?」
「イチゴ……えーと、ショートケーキ」
「そうだ。ならこっちは?」
「も、モンブラン……」
「これは?」
「……ダージリン?」
「うん。じゃあこっち」
「ううんー? ……んん……あ、……アール……グレイ……?」
後半になるほどしどろもどろになるおれとは反対に、大きくうなずいて見せたカインはおれから店員さんに向き直ると以上で、と伝えた。あやふやな発音にも関わらず問題なく聞き取ってくれたらしい店員さんは注文を復唱したのち、営業スマイルを浮かべて奥に引っ込んでいく。それを見届けて、ふうっと大きくため息をついた。
ある程度こちらの文字を勉強して時間が経ったので、たまに訪れる栄光の街のカフェで注文ができるかどうかのテストをすることになったのだ。どうやら及第点には到達できたらしい。
「ぜんぶあってた……よかった……」
「お疲れ、直隈。約束通り今日は俺の著りだ」
テーブルをはさんで向かいに座っているカインは爽やかな笑みを浮かべながらそう言うが、きちんと読めなかったとしても次頑張ればいいさと言って結局奢ってくれたのだろう。彼はきっとそういう性格だ。そんな彼の人となりを知っているからこそ、絶対に間違えてはならないというプレッシャーもあったし、加えて店員さんという第三者もいたため冷や汗はドバドバだ。こっそりと汗のにじんだ手のひらをぬぐいながら、緊張で上がった体温を少しでも下げようと炭酸水を飲む。
「直隈はショートケーキとモンプラン、どっちが好きなんだ?」
「どっちも同じくらいかな。カインは?」
「奇遇だな。俺もどちらも好きなんだ」
「そっか。今日はどっち食べたい?」
そう尋ねると、カインはにっと口角を上げて笑った。
「直隈ならそう言うと思った。お前さえよければ、半分ずつ分けないか?」
「あ! いいね、するする! なんか学生時代思い出すな」
「俺も、訓練兵時代はよく仲間と金を出し合ってバーベキューとかしてたな」
「ああ。買うもの分担すれば結構食べれるよね、あれ」
世界は違っても似たような経験はあるものなんだなぁ。と、そこから思い出話に花を咲かせていると、先ほどの店員さんが注文したものを運んでくれるのが見えた。
ああ、そういえば紅茶も二つ頼んだのだった。ルチルやラスティカに銘柄について聞くことはあるのだがまだまだ詳しいとは言えないので、これについてはカインの意見を聞きたいと思う。
2020/10/22