今回は、アーサーと賢者であるおれが揃って中央の国にに行かなければならない用事があった。アーサーが王子としての仕事もこなしている間にそのあたりを散歩していると、なんとドラモンド卿とばったり出くわした。彼も彼で大臣である以上とても忙しい人のはずなのだが、一緒にいた部下の人たちを先に戻らせて挨拶をしてくれる。
「それで、賢者様は……いかがでしょう。魔法舎で暮らしていて」
どう、とは。首を傾げかけて、クックロビンから「あの方は顔は険しいけどいい人なんです」と以前きいたことを思い出す。出会った当初はかなり強引なところがあったり魔法使いへの偏見に対して思うところもあったのだが、悪い人ではないことはこれまでの関わり合いで知っているつもりだ。おそらく純粋に心配して聞いてくれているのだと思う。
「賢者様は異世界からいらっしゃったのですし、ご不便などはありませんか」
ほ~~らやっぱりね!!! おれはいい人と、おれのことが好きな人のことを好きなので、にっこにこで心配しなくて大丈夫ですよアピールを始める。
「とんでもないです! 確かになれないこともありましたが、魔法使いたちや、クックロビンとカナリアにも助けられながら生活してます」
「そうですか、それはよかった」
「はい。……それと、各地から魔法舎へ集まる依頼の窓口にもなってくださって、ありがとうございます」
すべての依頼がじかに魔法舎にくると、とてもではないが圧倒的にキャパシティが足りない。プラス、賢者という役職のおれを含め社会的地位が高い人物もいる。そのため、魔法省が依頼の前調査や裏どりをほぼ請け負ってくれているのだ。緊急性の高いものや、たまたま魔法使いに直接話が来た依頼はその限りではないのだが、魔法省がなければおれの仕事もどれだけ多忙になっていたか想像もつかない。
そう思って礼を述べると、ドラモンド卿はほっとしたような照れくさいような表情を浮かべた。
「魔法舎は中央の国の所属です。今年はアーサー殿下も賢者様の魔法使いとして選ばれたのですから、国の名を懸けて運営しますとも」
そう語る彼の目には決意にあふれていた。
「頼もしいです。それと、もしよろしければ今度改めて魔法舎へいらっしゃいませんか? 私や魔法使いたちがどんな暮らしをしているか見ていただきたいです」
前回の訪問は和やかなものとはとても言い難かったし、彼の魔法舎の記憶も、魔法使いたちから彼への印象も、少しでもいいものにしたかった。それはもちろんおれのエゴも多分に入っているのだが、お互いを知っておくのは平時だからこそ重要なのだ。
彼も同じようなことを考えたのだろうか。それともずっと年上だし政治に深くかかわってきた人だし、おれなんかでは想像もつかないことに考えを巡らせているのだろうか。しばらく黙ったあと彼は鷹揚にうなずいた。
「ええ。近いうちに、是非」
「……よかった! 一同でお待ちしていますね!」
2020/10/22
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