「賢者、愛してる」
中庭の常緑樹ごしに、シノがおれに壁ドン(樹ドン?)をしながら囁いた。来るとわかっていたのに、いやわかっているからこそ、心臓が早鐘のように鳴っている。
「ン……ふふ……」
だめだ、どうしても照れ笑いをしてしまう。おれが笑ったのを確認したシノは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。さらにその後ろでは他の東の魔法使い三人が「知ってた」とでも言いたげな表情でおれとシノを見ている。
「また俺の勝ちだな」
「いや……これ……どうあっても照れちゃうでしょ!」
ねえネロ! 同意を求めるとネロはさあ……と視線をそらしてはぐらかした。
「初めてされたときは何事かとは思ったけど、別に……」
「ええ……? ……ヒースクリフは?」
「えっ、俺ですか、俺は……その……」
「ヒースも弱いぞ。毎回俺やアーサーに言われて照れてるからな」
仲間がいた! と喜ぶと、ヒースは顔を赤らめた。なるほどこういう感じか。
おれがシノに迫られていたのは、魔法舎ではおなじみの遊戯になっている「愛してるゲーム」のせいだ。愛してる、という単語を今まで日常的に使うことも言われることもなかったで、その言葉を聞いたり言ったりするとおれはどうしても照れが入ってしまう。照れはこのゲームにおいて最大の弱点なので、よく遊んでいるリケやカインにはここぞとばかりにカモにされてしまうのだった。そして現在もちょうどシノにされていたところだ。
それまで黙っていたファウストがしらーっとした目でおれに苦言を投げかけた。
「君は……クロエと恋人同士なんだろう? 彼の知らないところで愛してるだのなんだの言われて照れるのは、いくらゲームといえど不誠実じゃないのか」
「えっ……え?! 違くない?! それとこれとは別というか!」
皆が親愛的な意味でおれに言ってくれているのがわかるから、というのはまず前提にあるとして。特にシノに対してアイドル的な何かを感じているおれは、シノに迫られるたびに個レスをもらったファンのごとくテンションがあがり照れまくってしまうのだ。
「リアコとか推しとか担当とかいろいろあるけど、おれのこれはファンとしての照れなので! そういうのとはまた全然違うんですよ!」
と、おれなりに分かりやすく説明をしたつもりなのだが、ファウストから返ってきたのは無情な一言だった。
「はあ、」
「ちょっと! 自分から言っといてまったく興味なさそうな相槌打たないで!」
「ヒース聞いたか。賢者がオレのファンだって」
「うん。ややこしくなるから、ちょっと静かにしておこう……」
2020/10/23
Tweet