猫。古来より存在し、人類とともに過ごしてきた生き物。柔軟な体を生かして高いところや狭いところも難なく入り込むことができる。そんな存在がいま、にゃーんとかわいらしい声を上げて、おれの足元に体を擦り付けている。
ネコちゃん、カワイイ!
「いつもここにいる子かな? かわいいねーめっちゃ人馴れしてるねー。……え?! お腹撫でていいんですか?!」
ふわふわとした毛を堪能していると、その猫はおもむろにごろんと転がった。ぐぐーっと伸びをして、そのままの体勢でにゃんにゃん鳴いている。ゼアイズロングキャットネコチャン。
猫の視線が撫でろと訴えていた(気がする)のでそのまま撫で続けていたら、しばらくして猫の耳がぴくりと反応した。そのままおれの手を押しのけてどこかへすったか歩いていくので、おれはもふもふタイムが終了したことを残念に思いつつも後をついていく。なにか興味が引かれるものがあったのだろうか。
「……ふふ、くすぐったいよ」
そこには、無数の猫ちゃんに囲まれたファウストがいた。いつもの眉を寄せた表情とは違いリラックスしているのが遠目でも分かる。なるほどね。おれが後をつけた猫も一鳴きしてファウストへ駆け寄ると彼は「君か、」と顔見知りに声をかけるように挨拶をして――それから、その後ろにたたずむおれを見つけた。
「ファウスト、仲いいんだね……」
「……別に、よくない」
気まずげに目をそらされる。どうやら彼は猫を好きなのが恥ずかしいと思っているらしい。でもそんな誤魔化しはファウストの膝の上でリラックスしている猫たちを一目見れば嘘だとわかってしまう。
「……おれは、ねこ、好きだよ」
さっきまでおれに撫でられていたのに、ファウストの横にぴったりとくっついて、すっかり目を閉じている猫を見つめながらつぶやくように言った。
このままもうしばらく猫と遊んでいたいような。でもファウストの心情を考えるとこのまま立ち去さった方がいいような。どうしようと動かしがたい足の代わりに視線を動かすと、どうやら彼も困ったような顔をしている。
「……もし、時間があるのなら、君も少し、ここにいるといい」
困ったような顔はしていたけれど、嫌ではなかったらしい。おれはお言葉に甘えて、もう少し彼と猫たちに近づくことにした。
2020/11/02
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