君色アミュレット

「ネイル瓶を選んでほしい?」
「うん。俺のアミュレットがネイル瓶なのは知ってるよね。それがこの前欠けちゃって……よかったら、賢者様に新しいのを選んでほしいなって思ったんだ。いいかな?」
 照れ笑いを浮かべながらクロエにお願いされたのは小さな頼み事だった。見せてもらった手のひらには、たしかに端の方が欠けたネイル瓶がちょこんと乗っている
「そりゃあ、おれでいいなら喜んで……。でも前のもお気に入りだって言ってたよね、魔法で直したりはできないの?」
「うーん、できるんだけどね。前にシャイロックにお店のものが壊れたときにどうしてるのか聞いたら、魔法で直すのもいいけど、ある程度は自然に壊れるままに任せた方がそれまでの一緒に過ごす時間を大切にできるし、これからの新しい出会いも楽しめるからって聞いて、すっごくいいなって思ったんだ。俺が昔から使ってるものは魔法具の裁縫道具があるし、それならアミュレットは変わっていってもいいかなって」
 なるほどとうなずいた。確かに、それはいい考えだと思う。古いものも新しいものも一緒に手元に置いておけるのは、きっと素敵なことだ。
 そういえば、このネイル瓶をアミュレットとして選んだ? アミュレットになった? 経緯についてはよく聞いてなかったけど、何か条件でもあるのだろうか。
「アミュレットにするようなのって、ネイル瓶なら何でもいいの?」
 材質とか形状にこれというものがあるのならあらかじめ聞いておいた方がいだろう。そう思いそのまま聞いたのだが、なぜかクロエはわたわたと慌てだしてしまった。
「あのね、その、ネイル瓶なら一応どれでもアミュレットにはなるんだけど、やっぱりお気に入りのものの方がより力が出る気がするんだ。だから、賢者様に、選んでほしくてお願いしたんだけど……、えっと……賢者様の選んでくれたものなら、なんでも……お気に入りになるから……」
 顔を赤らめて、しまいにはぼそぼそとつぶやくように話すクロエの言葉を聞いて、おれはようやくはっとした。これ、おれの言葉足らずのせいで結構恥ずかしい説明をさせてしまったのでは……。
「あっ、あー、なるほどね! そっかあうれしいなあ! じゃあ、綺麗なネイル瓶張り切って探さないとなー!」
 面白いぐらいわざとらしい言い方になってしまった。しかし明らかに挙動不審なおれを指摘することなく、クロエはこくこくとうなずいてくれた。この空気のまま無言になってしまってはいたたまれなさが天井知らずになってしまう。おれは照れと緊張で固まりかけている口の奥からなんとか言葉を引っ張り出した。
「え、えーと……じゃあ、どうしようかな。明日にでも、街に出て買いにいこうか?」
「う、うん! そうだね! 賢者様とお出かけ、楽しみだなあ」
 結局、その日はお互いにやたらぎこちない解散になってしまった。せっかくクロエと出かける予定を取り付けられたのだから、明日はきっと、普段通りに接しないと。


2020/11/02