構ってもらえるのが嬉しいのは確かだけどさあ!

「賢者様、カインおすすめのお店はこちらです。はぐれてしまいますからあまりよそ見をしないでください」
「へへ、面白いものが多くてつい」
 ぽかぽかと日差しの暖かい日に、おれはリケに連れられて街へ来ていた。リケからの提案でしっかりと手をつないで、人通りの多い道をてくてく歩いていく。注意を受けながらも店へ向かっていると、向こうの方から聞きなれた声がした。
「フィガロ先生! あんまりふらふらしないでくださいっ」
「……ミチル!」
「……って、あれ、リケ? 賢者様も」
 示し合わせたわけではないのだが、タイミングよくフィガロとミチルも街に出てきていたらしい。話を聞くとカインは魔法舎の様々なところでおすすめのお店の話をしていたらしく、だから行くタイミングが被ったそうだ。

 スイーツを食べながらリケとミチルは二人の世界に入っている。楽しそうなおしゃべりをBGMにフィガロの顔をうかがうと、ちょうどばちりと視線が合った。
「偶然だね、賢者様」
「そうだね、まさか時間帯まで被るとは……。……他の店に行く予定もあるし、おれとリケは早めに出ようか」
「どうして? ミチルもリケも、友達に会えてうれしそうなのに」
「でもフィガロとミチルは元々二人で出かけるって予定だったんだろ?」
「……ああ、もしかして気を遣ってくれてる? 俺は大丈夫だよ、賢者様」
「……そう?」
 フィガロがいうなら、大丈夫ってことなんだろうけど。彼の微笑みは柔和な青年といった雰囲気でどこにも引っかかる場所はない。ミチルとの関係を特に大事そうにしているからと思ったのだが、気を配るというのは難しい。いっそフィガロには何も言わずにいいところで切り上げるのがよかったのだろうか。
「本当に気にしないで。それより、どう? リケとは」
「……? どうとは……?」
「夜はリケに連れられて寝に行くし、一緒に出かけるときは必ずと言っていいほど手をつないでるじゃない。どう? 誰かにお世話されて手を焼かれるのって、すっごく気持ちいいよね?」
 フィガロはにこやかに言ってのけた。この微笑みにも、どこにも引っかかりは存在しないように見える。あくまでも微笑みだけを見れば。
 おれはつくづく思う。どうして彼はこう、発言のアクセルを急にべた踏みしだすのか。
「言いたいことはわかるけど、言い方がイヤ!」
「ええ、そうかなあ」
 フィガロは残念そうな表情を作って微笑んだ。


2020/11/02