「うわー……すごい。いっぱいメモがあるんだね」
「うん! 任務で着る服なら、行く場所について聞いて思いついたことをメモしたり、あとは着る人をイメージして、どんな色や形が似合うかなあとか、好きなモチーフを聞いたり……考えることがいっぱいあって楽しいんだ!」
クロエの部屋を訪れると、彼はちょうど次の任務に向けて服のデザインを考えているところだった。スケッチブックには走り書きやイラストのデザイン案がところせましと並んでいる。ページをめくっていくと、自分がまさに彼に着せてもらったデザインの服や、よく似ているが細部がことなるものが次々目に飛び込んできた。それらを興味深く眺めていると、ふとクロエが思いついたような声を上げる。
「そういえば、この前ルチルに聞いたんだけど……賢者様ってたまにルチルと絵を描いてるって本当? よかったら、俺にも見せてほしいな」
ぴたっ。おれのページをめくる手が止まった。お、おれの絵を、一緒に描いていたルチルやたまに通りがかった魔法使いたちにちらりと見られるのは別として。完成品とした絵を、見せるだって?
すうっと指先が冷えていき、反面顔には熱が集まる感覚がする。見せるのが嫌なのではなく、これは、そう、差恥である。何事もなかったように領きたかったのだが、クロエはおれの様子がおかしいことにしっかりと気づいていた。こちらが口を開く前に彼は慌てて手を振った。
「ご、ごめんね。そんなに見せるのに抵抗があるとは思わなくて……嫌なら無理に見せなくて大丈夫だから」
「いや……嫌なわけじゃないんだ……! ただちょっと恥ずかしいってだけで。それに、クロエにだけ見せてもらって自分が見せないのは……全然フェアじゃないので……」
「フェアって……そんなこと、気にしなくていいのに」
正直、人に見せる前提で描いているものではないので、ちょっと、割とかなり、けっこう、だいぶ。見せるのは恥ずかしい。今まで書いたどれを見せてもきっと彼はいいところを見つけてくれるんだろうけど、そもそも自分の生身の部分を切り取って誰かに見せるというのは勇気のいる行為なのだ。しかしおれと同じ考えかどうかはともかくとして、目の前のクロエはいろいろな人に服という形でその行為をしている。なのでここで首を振ることは、彼の誠実さを裏切ることと同様の行為に思えた。おれはクロエを見上げ、神妙にうなずいた。
「いや……これは、おれがおれを納得させるために必要なことなんだ……」
「す、すごいこだわりだね……!」
2020/11/03
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