小さな手のひらの勇者

「み、ミチル~~~!!」
 森から出て安全な小屋に入るなり、おれはミチルの両手をぎゅうっと握りしめた。上下にぶんぶん振って、困惑した彼の声が聞こえるけどおれの感情の昂りは収まらない。
「け、賢者様? どうしたんですか?」
「さっきはえらかったね~~~!!」
 さっき、ミチルは任務中にとある失敗をしてしまったのだ。でも、だって……。彼は言い訳を口に出しかけたけれどそれは一瞬で、次の瞬間にはすでにどう状況を打開するかを考えるため前を向いていた。おれはそのことについて口にしたのだが、彼はおれのことばに表情を曇らせてしまう。
「あ、あの、すみません、ボク……さっきは、失敗してしまって」
「ううん。そういうときのためにチームでやってるんだから。ちがうんだよ、おれが言いたいのはミチルってすごいねってことなんだよ」
「……すごい、ですか?」
 ちっとも納得できない、といった顔だ。さっきの失敗を引きずっているのだろう。でも、だからこそおれはミチルに伝えたいと思った。
「ミチルはさっき失敗して、怖くなったと思う。でもそこをぐっとこらえて何ができるか考えてくれたから、おれたちは怪我もなく戻ってこれたんだよ」
「でも、予定より大幅に時間がかかってしまって」
「それは計画の段階で余裕をみてたから大丈夫だよ。というか、もし時間切れしてたら計画を立てたおれとフィガロの反省点」
「……」
「かっこよかったよぉ、ミチル……あっなんか感動して涙出てきちゃった……」
「賢者様?!」
 ぽろっとこぼれた涙に彼はわたわたと慌てだしてしまった。彼を慰めたり褒めようとしてたのに逆に気を遣わせてしまうなんて、大人として申し訳ないなと思う。ごめんミチル。ほんとに。
「おれもいっぱい失敗するからさぁ、落ち込むのってすごいわかるんだよ」
「失敗、するんですか。賢者様も……」
「するよ、するする! しっぱなしだよぉ。でもそこで拗ねたり投げ出したりしなかったミチルはすごいんだよ……うう、頑張ったねミチル~~!!」
「……。……泣かないでください、賢者様」
 つないだままの両手をミチルが握り返すのにうなずいた。彼は口を開いたり閉明じたりを繰り返して、何を言うか考えあぐねいているようだ。
「その、うまく言えないですけど……ボク、賢者様が失敗してしまったとき、きっと、助けられるようになります。兄様やレノックスさんや、フィガロ先生が失敗してしまったときも、助けられるぐらい強く」
 ミチルが、子供をあやすときのように優しく手を揺らした。誰かを助けよう。そう思える強さを、彼は既にもっている。
「……ミチルがフィガロよりも強くなったら、おれまた感動して泣いちゃうかも」
「ええっ、泣かないでくださいよ! また、今日みたいに褒めてくれたら嬉しいです。……だからそれまで、見ていてくださいね」


2020/11/04