「<スイスピシーボ・ヴォイティンゴーク!>」
二人で一人用のベッドをつかうのはいささか狭すぎるので、彼と二人で寝る夜はいつもクロエの魔法を使って大きくしている。魔法って便利だなぁとおれが毎回思っている出来事なのだが、修行中であるクロエの自己評価によるとまだまだ精度が甘いのだという。例えば楽しいことがあってテンションが高い日は部屋の余白いっぱいのキングサイズになることもあれば、任務帰りでへろへろになってしまいかろうじて魔法が使える、という日はダブルベッドというには広さが足りないこともある。そこまで疲れているのならベッドも自分ひとりで使ったほうが疲れもとれるんじゃないかと、その日はそれぞれ自分の部屋で寝ることを提案したこともあったのだが、クロエはそうだよね、と言ったあとすごく残念そうな……寂しそうな顔をしたのでおれはすぐさま前言を撤回して、一緒に寝ることを宣言したのだった。
そして、今日。
(……ちょっと、狭いような)
彼はいつも通り呪文を唱えていたし、日中は別段忙しくしていた様子もなかったけれど、おれがわからなかっただけで実は体調がすぐれないのだろうか。いまからでも疲労回復にいいルチル印のハーブティーをいれてこようか……などと考えていると、先にベッドにもぐりこんだクロエがちょいとおれの寝巻の裾をひっぱった。
「賢者様、今日は……えへへ、くっついて寝よう?」
照れの混じった微笑みを見て、なるほどそういうことかと合点がいった。今日のベッドのサイズが小さいのは彼が疲れているからではなく、彼が言葉にした通り、おれとくっついて寝たいからだ。
「……うん」
己の心拍数がときめきで急上昇するのを自覚しながらおれもベッドにもぐりこむ。クロエはおれが入りやすいように奥に詰めたけれど、ベッドのサイズがいつもより小さいのでお互いの腕や膝が頻繁に触れ合う。
「ふふ」
おれを見上げてはくすくすと楽しそうに笑っているクロエをみていると、たまらない気持ちで胸がいっぱいになる。クロエの癖の強い赤毛をくしゃくしゃに撫でまわして、くすぐったいよとまた笑う彼の声を聞いて布団をかぶった。同じ布団を使っているのだから、布団をかぶったとしてもおれたちを隔てるものはなにもないのだけど。
「……クロエ、おやすみ!」
返事の代わりに、クロエはもぞもぞと布団の中を探りおれの手を取った。手首や手の甲、指の間、爪まですべてに優しく触れてきゅっと握る。せっかくおやすみと言ったのに、このままじゃ眠れなくなってしまうじゃないか。
2020/11/20
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