デートだからね


 今日のおつかいはシュガーを卸して問題や気になっていることはないかを直接聞きに行くという内容だ。最後の一件である店も特に問題なく要件を終え、店長に会釈をして店を出た。先に外に出ていたクロエを探すと少し離れた場所に彼を見つけた。口を開いたタイミングで、誰かと一緒にいることに気付く。見知らぬ女性が二人、にこやかにクロエと話しているのだ。道を指さしているみたいだし道案内だろうか? と近付きながらも観察していると、さらに笑みを深めた彼女らがクロエの手を取った。クロエは困惑しているように見える。
 およ、と思った。あれはもしかしてナンパというやつでは。
 傍からみていて彼女たちに強引だなという印象は受けなかったが、クロエは女性が苦手だし、たとえ彼でなくとも初対面の相手にボデイタッチをされて気にならないかと言えば微妙なところだ。やっとクロエのそばに近づき声をかける。
「あ、あの、俺人を待ってて……」
「お待たせ」
 三人の視線がこちらを向いた。クロエはほっとした表情をしている。女性達は尚もにこやかに話し始めた。
「あら、お連れの方? 道を教えてくださったお礼にお茶をとお誘いしていたの」
「あなたもご一緒にいかが?」
 と、そっとおれの手を取り彼女らは尋ねる。なるほど、あくまでも物腰は柔らかだし問いかけが丁寧なのでなんとなく断りずらい。さらに言葉を重ねようとする彼女たちに、おれは穏やかな笑顔を作ってゆっくりと首を振った。彼女の手をほどき、クロエの手に絡める。
「すみません、せっかくですけど……いまからおれたち、デートなんです」
 そういうと女性は顔を見合わせて、きゃあと黄色い声を上げた
「……まあ! 私たちったらごめんなさい、お邪魔をしてしまったわ」
「お仲間が助けてくださって嬉しかったのは本当よ。ありがとう、親切な方」
 ロ々にそう言って、彼女たちは笑顔で去っていった。嵐のような出来事に一瞬流しかけたが、やっぱり引っかかった疑問が口をつく。
「……お仲間?」
「あ、あの二人、たぶん魔女で」
「ああ……そういう意味か」
 困っていたところをあまり見ないお仲間に助けられたら、確かに一緒にお茶でものテンションになってしまうのかもしれない。ヘえーとうなずくと、クロエがおれを呼んだ
「……直隈、ありがとう。助けてくれて……」
「うん、助けられてよかった。めっちゃ元気なひとたちだったね」
「ふふ、うん。……ねえ、手、このままでもいい?」
 遠慮がちに尋ねられた。ほんとは離したくないけど、断られても仕方ないかな、みたいな雰囲気。
「……そりゃあ、デートなんだから、このままでいいでしょ」
「……そっか、デートだもんね」
「そうそう。デートだからね」
 絡めた手が、やっと握り返された。


2022/01/12