今日の直隈の寝起きチャレンジ!


 朝。直隈と同じ部屋で寝たあとは、彼を起こすまでがセットだ。たまに彼の方が早く起きてることもあるけど、だいたいは俺が先。ぐっすり寝入っている直隈を少し眺めてから伸びをした。
「直隈、おはよう」
 そう声をかけて肩をゆする。タイミングが良ければこれだけでも起きてくれる日はあるけれど、今日はそうじゃない日みたいだ。うんともすんとも言わずに……否、すやすやと寝息を立てている。
 俺はベッドから出て着替えながらしばらく待って、彼が一向に起きる気配のないことを悟ると先ほどよりももう少し強く肩をゆすった。
「直隈、朝だよ〜」
 すると彼は小さく唸りながら細く目を開けた。やっと少し起きれたみたい。直隈と目を合わせてもう一度「おはよう」と言うと、彼はしきりに目を瞬かせて口を開く。けれど寝起きだからかまだ半分夢の中だからか上手く発声ができないみたいで、ふにゃふにゃと意味の持たない音が彼の唇からこぼれ落ちた。
「んん……ま、ぅ……」
 むにゃむにゃ、もにゃ。まさにそんな感じ。頑張って眠気に抗っている直隈には悪いと思うけれど、寝起きのこの状態はかわいくて好きだ。頑張ってるけど中々起きれない。でもやっぱり頑張ってる。うん、かわいい。多分、俺は寝起きがいい方だから余計にそう感じるんだと思うんだけど。
 彼がまた眠ってしまわないように俺はブローチを二つ胸元に宛てて、「直隈、どっちが似合うと思う?」と聞いてみる。そうすると直隈は眠そうな目で、でもきちんと俺の話を聞いて、何回か瞬きをした熟考の後にこっち、と力無げに指さしてくるのが嬉しかった。
 俺が着替えと鏡チェックを済ませて振り返ると彼はうつ伏せになって、枕を抱え込んでいた。一応起きようとした痕跡はあって、折りたたまれた足に巻き込まれた布団が、まるでかたつむりのようにくるりと丸まっている。しかも仰向けから転がる拍子に絡まってしまったのか、彼の頭は寝ぐせ以上にぐしゃぐしゃだ。俺はヘアブラシを取り出した。
 その後、俺が髪を整えている時間で彼は徐々に覚醒できたようで、寝ぐせを整え終わる頃にはだいぶしゃっきりした表情になっていた。けれど部屋からでて食堂に向かう途中、ふと俺を振り返った直隈がはてと首を傾げる。
「……ん? クロエ、いつもとブローチが違う? けどそれも似合……」
 そう独り言のように問いかけた後で彼ははっと思い出したように言った。
「さっきのやりとりって、夢じゃなかったんだっけ?!」
 俺はつい、こらえきれずに笑ってしまった。似合ってるのはもちろんだ。だって、直隈が選んでくれたものだもの。


2022/06/03