赤毛の子に挟まれる



 昼下がり、いつものベンチでのんびりしていると、通りがかったミスラがどかりと横に座った。手を差し出してきたので彼の無言の言葉を察して、心得たとばかりに手を握る。
 彼は前回の<大いなる厄災>による傷の影響で眠ることができなくなっていた。かろうじて賢者であるおれと手を握っていれば眠れることもあるのだけれど、賢者の力の発動条件はよくわかっておらず手を握っても彼が眠れるかどうかは五分五分、といったところだ。
 好きな時に眠れない辛さは同じ生物として、また寝ることが好きな者としては察するに余りある。どうにかしてミスラに快適な睡眠を提供したいけれど、中々思うようには行かないのが現状だった。
「俺よりも先に寝ないでくださいよ」
「そんなに眠そう?」
「そうですね、当てつけですか?」
「いやいや、まさか」
 眠気で不機嫌になっているミスラと言葉を交わす。実のところ結構眠い。苦し紛れに子守歌でも歌ってみるか……と脳内で歌詞検索をはじめたところに、これまたちょうどクロエが通りがかった。目が合ったので、ミスラが座ったのとは逆サイドをぽんぽんたたくと彼は素直に近寄ってきた。おしゃべり好きな彼がいれば、ミスラが眠る前におれの寝落ちは避けられるかもしれない。……いや、逆にミスラが眠れなくなってしまうだろうか……?
 おれの横に座り、おれとミスラが手を握っているのをみてクロエは尋ねた。
「ミスラ、眠いの?」
「そうです。今のところ、眠れそうな気はしませんが……」
 深く長いため息をつきながらミスラがベンチにもたれかかった。両隣で目の引く赤色がちらちらと覗く。大の男三人で並ぶといつもより狭くなるベンチに、とある盤上ゲームを思い出してフフフと笑った。
「オセロだったら、おれの髪も赤くなってるな……」
「は?」
「え?」
 片や「またわけわからないことを言っているな」というじっとりした目。片や「それってつまり、髪の色を赤くしてもいいっていうこと?」とキラキラした目。早く寝かせろと引っ張られる片手、いいってことだよね? と期待を込めて取られる片手。
 ただの思いつきを呟いただけなんだけど。もしかするとおれは余計な一言を言ってしまったのかもしれない。


2022/07/08