直隈が犬になった。ふわふわで、もふもふの大型犬に。
どのくらい大きいかというと、背丈はいつもの彼と同じくらいで体重はいつもの彼よりもきっと重いぐらいの大きさ。彼は日々犬を見るたびにかわいいと繰り返して、チャンスがあれば全力で撫で回していたけれど、まさか直隈自身がそんなかわいい犬になってしまうだなんて。
朝起きて、寝ぼけまなこで愛しい恋人の肌を求めるとそこには慣れた柔らかさはなく、代わりにふわふわした感触があった。あれ? と思って目をこすると、もこもこの大きな犬が、俺がプレゼントした直隈のパジャマを着てすやすやと眠っている。よくよく見ると肩の部分がきつそうだし、袖の部分はもこもこの毛がいっぱいに詰まって少々着心地が悪そうだ。お、お直ししなきゃ……! なんて仕立て屋の血が騒いだけれど、ちょっと立ち止まって思考を戻す。
「……?」
もう一度確かめるように触れるとその毛皮は見た目通りの柔らかさをしている。毛色も彼の髪の色と同じだ。しばらく考えて、そういえば、直隈は昨晩こんなことを言っていたと思い出した。
「クロエは、犬って好き?」
「うん? うん、かわいいよね。どうして?」
「じゃあさ……ふあ、おれが犬になったら、いっぱい可愛がってね……」
俺の問いに答える前に彼は大きなあくびをして、それきり眠りについた。直隈が犬になるって、どういうこと? その場では彼の真意はわからなかったけれど、きっと目の前の彼は誰かのいたずらではなく彼があの時点で予見できていたことなのだろう。
いっぱいかわいがる。彼の言葉を思い出してもう何度かふわふわと撫でた。するともこもこの耳がぴくりと動いてすぐまたぱたりと落ちる。俺が手を止めると彼の耳も体もそれ以上は動かなくて、ただぴすぴす鼻息を立てながら穏やかに眠っている。
「……かわいい」
ぽろりとこぼれた一言は、なにも彼から言われたからではなく。実感として本心から出たものだった。
2023/01/17