さてその後どうなったでしょうか!


 真っ白で統一された、清潔感を越えて無機質ささえ感じる部屋の壁にデカデカとボードがかかっていた。″媚薬を飲まないと出られない部屋″。クロエが読み上げておれは全てを察した。
「なんの前触れもなく放り込まれるんだ……」
 この世界に来た時と違って、今度こそほんとに「媚薬を飲まないと出られない部屋からの脱出」だったりしないかなと一通り家具をひっくり返したり怪しげな溝を調べて見たり、はたまたドライバーが隠れてないかと探してみたけれどどうやっても謎っぽいものも工具も見つからない。ただこの部屋が、置かれた状況そのものが謎なだけだ。
「そろそろほんとに脱出ゲームさせてくれてもいいと思うんだけど」
「たまに言ってるよね、その話。楽しそうだし俺もやってみたいなぁ」
 めちゃくちゃでかいベッドの上で大の字になりながらのんびり会話をする。スプリングは程よい弾力があるしシーツはさらさら。このまま魔法舎に持って帰れたらどんなに良いだろうか。サイドテーブルには栄養ドリンクサイズの媚薬瓶が二本並んでおり、さらにその横にはご丁寧に媚薬の品質保証書も置いてあった。内容を縮めると「この瓶を二本とも飲んでね。ちなみにどの生物が飲んでも害はないよ〜アレルギーテストもバッチリ!」ということが書いてある。どうしてこういうところには配慮があるんだろう。
 アレルギーテストにクリアしても全ての人にアレルギーが起こらないわけではありませんというお決まりの注釈を思い出しつつ、媚薬を飲ませられるという最大のモラルのなさに首を傾げつつ。「よし」と気合を入れておれは起き上がった。
「おれが二本とも飲むから、クロエは部屋から出れた後助けてね!」
「……えっ?! あ、そっか。誰が何本飲むって指定はされてないから……。だ、ダメだよ、なら俺が飲むから直隈は待ってて」
 彼がそういうのはわかっていた。だからおれもそれっぽい理屈で反論する。
「いざという時、魔法が使えるクロエがフリーでいてほしいんだよね。ほら、おれたち背丈はほぼ一緒だけど、どっちかが動けなくなるかもって考えた時クロエならおれのこと運べるだろうし」
 とはいえ中々クロエも納得しない。用意していた言葉は早々に尽きて、その末に軽く言ったつもりの言葉でおれは墓穴を掘ってしまった。
「それに、ホンモノの媚薬飲んだらどうなるのかは前々から興味あったし……」
「そっ……そんなの、俺も気になるよ!?」
 勢いもあるけれどたしかな溢れ出る興味を感じ取り思わず言葉が詰まってしまう。そう、おれはあろうことか見落としていたのだ。クロエは元から好奇心旺盛な方だけど、たまに強烈な方向に向かうことがあると――。
 そこから先はとてもじゃないけれど反論できなかった。元々お喋りはクロエの領分なのだ。加えて以前、西の国にあるえっちな大人のお店で媚薬を買う買わないの話をした時の話を持ち出されればおれはそれ以上何もいうことはできず。
 結局、強制されるのは納得いかないけれどそれ自体には興味があるのだから、この部屋のベッドは使わずに飲むだけ飲んで帰ろうというところに落ち着いた。我ながら危機感が薄いというか、似たもの同士というか。
「媚薬で乾杯とか初めて」
 感慨深げにいうクロエに、フフと笑い返して瓶を持ち上げた。


2023/01/18