トラブルはいつも突然に


「……おはようクックロビン。せっかく執務室まで来てくれて悪いんだけど……今日のおれ、もう閉店してもいいかな」
「どうしたんですか? 藪から棒に」
 おれは視線を窓側に向け、片肘をついて朝の挨拶をした彼にそう告げた。おれはさぞアンニュイな雰囲気を纏っていることだろう。きょとんと首を傾げるクックロビンに、どうしてこんなことを言ったのか理由を口にする。
「びっくりするほど寝違えちゃった……」
「……ああ! だからずっと横を見てるんですね」
「うん……」
 今のおれは前を見れない。物理的に、猛烈な痛みに襲われるからだ。いつもは目が合うのに何事かと思いましたよ! そうにこにこ言う彼にごめんねと言った。あっさり首を横に振る彼に沁み入っていると、温めるといいですよ、とか少しずつストレッチしていきましょうね、とか色々とアドバイスまでくれた。同僚があまりにも優しすぎる。
「それじゃあ、今日はお休みにしておきましょうか」
「ありがとう。クックロビンも、寝違えた時は休めるからね。遠慮なく言ってね」
「ふふ、はい。覚えておきますね!」
「……ところで今日、ルチルいないよね。前に寝違えた時も助けてもらったんだけど……」
「ああ、そうですね。フィガロさんも一緒に出てしまってますし」
「だよねえ。ストレッチがんばるか……」
 ぐっ、と、痛いか痛くないかギリギリまで腕を伸ばした。何往復かして腕を下ろすだけでも息は絶え絶え。けれど少しでも良くなってくれという祈りを込めつつ、別な方向に肩や腕を回す。
「見つかったら絶対からかってくるメンバーもいるし、今日はここに閉じこもってようかな……」
「あはは……。北の魔法使いさんたちに見つかったら大変そうですね」
「や、やめてよそんなこと言ったら…――」
 フラグが立ってしまう。そう言おうとした瞬間、遠くで盛大な爆発音がしたしておれの視線の先の窓には、もくもくと上がる煙が見える。すぅ……緊張から、吸う息が思わず細くなった。
「……け、喧嘩……ですかね……」
 こんな秩序のない大爆発を起こす犯人は決まったメンバーしかいない。天を仰ごうとして――痛みで視線は上がらず、ちょっと上を見るだけに留まった。
 魔法舎の一角は既に無事ではない。おれの首も、無事では済まないのかもしれない。


2023/01/26