キスしばり


 指を絡ませて手遊びのようにゆるく擦り合わせたり、水かきをなぞるように引っ掻いた。彼の手を取る前からずっと視線は絡んだままで、彼の瞳には少しの緊張と期待と、そして情欲が潜んでいた。自分も同じ眼差しをしているのだろうな、と思いながらそっと唇を合わせる。はじめは挨拶みたいなもので、ただ触れては離すだけのもの。これだけでも気持ちいいんだけど、そこはやっぱり、大人だから? ううん、今のはただの言い訳だけれど、それだけでは終わらない。角度を変えて啄むように、何度しても足りないと言わんばかりに繰り返す。次第に唇だけじゃ物足りなくなって――元々、それだけで済ませるつもりもないのだけれど――舌も擦り合わせて、優しくくすぐったり、吸ってみたり。ううん、まだまだ足りない。段々と焦れてきて、彼の頬をすくい……否、半ばつかまえるように、顎をしっかりととらえてまた大きく口を開ける。一瞬の呼吸ののち彼を貪った。どこを撫でてあげれば彼が喜ぶかは、もうすっかり覚えてしまった。それだけ、もう何度も甘いひと時を繰り返してきたことを意味する。彼だって、こちらがどこをどうされればひとたまりも無くなってしまうのかは、すっかり熟知してしまっている。いまだって、それがわかる触れ方をしているのだ。それがまた余計に、頭だか胸だかお腹だか、どこかわからないけれど――確かにどこかにある熱を燻らせる。
 しばらくそうしていると、つま先の感覚が覚束なくなり膝が笑い出した。身の内に溜まった熱はぶつける場所を探していて、それは間違いなく彼、というかお互いなんだけれど。でも性急にこの時間を終わらせてしまうのは勿体ない。ずっと続いてほしい、なんて子供のわがままのような願望を持ってしまう。
 彼に導かれるままベッドに横たわれば冷たいシーツがわずかばかり、頬の熱を落ち着かせてくれる。けれどそれもすぐにぬるくなってしまうだろう。冷めることを知らない熱は、またどちらともなく重なった。微かに漏れる声もとろりとした眼差しも甘い蜜も、ぜんぶぜんぶ二人だけのものだ。