「穴があったら入りたい」
おれは自室のベッドにうずくまりながら貝になりたがっていた。勢いあまって扉に激突した音を聞き、うめく声を心配して部屋からでてきたカインに介抱されつつ呟くと、当然彼は首を傾げている。そりゃそうだ。
「穴かあ。塹壕訓練でよく掘ったり埋めたりしたなぁ」
「そういうことじゃあないんですよ。……いや、それもいいのかも」
「一体どういうことなんだ?」
「……あー……」
「……」
「カインって、恋バナって大丈夫ですか」
ベッドから起き上がり尋ねると彼はおっ、という顔になった。大丈夫そうな顔だ。大丈夫というか、むしろ積極的に聞きたそうな顔だ。
「おれ……好きなひとが……いまして……」
「そうなのか」
「さっき……告白したんですけど……」
「さっき?!」
「……穴があったら入りたい……」
「……んん? 飛躍してないか、直隈」
ひいん、情けない泣き声をあげておれは再びつっぷした。説明はもちろん飛躍しまくりで、なんとかわかりやすいように説明しなければと頭の中で言葉を練るが全くうまくいかない。見かねたカインに、静かに問いかけられた。
「ええと? つまり直隈は意中の相手にお断りされた、ってことなのか?」
「お、お断り……されてない……いまのところは……」
「なんだ。ならそんな悲観的にならなくてもいいだろ。それとも他に気がかりなことでもあるのか?」
「……そもそも告白、するつもりなくて……なんか、出ちゃって。ぽろっと」
「ぽろっと」
「そう、ぽろっと」
「……なるほど、まあそういうこともあるだろう」
「あるの?」
「俺はあまりないが……」
「ないんじゃん!」
「あはは! それでも騎士団時代に聞いたことがあるし、今も賢者様から聞いた。それにぽろっとそういう言葉がでるってことは、それだけ相手と自然体で過ごせているってことじゃないのか? 俺は直隈にそういう相手がいるってことが嬉しいよ」
「ええ……それは、な、何目線……?」
「うーん、賢者様の騎士目線かな」
「カッコイイ。何なの〜」
「それほどでも」
じたばたしてカインのいい男っぷりに打ちのめされていると、穴に入りたい気持ちは治まったか? と聞かれて赤面した。恥の上塗りをしまくっている。
「うん、もう大丈夫……お騒がせしました……」
「いいって! まあ、もしほんとに入りたくなったらいつでも頼ってくれよ。 穴掘りならレノックスも一緒にやってくれると思うぞ」
「いやいやいや、大丈夫だから! ありがとうね!」
カインはからからと笑っておれの部屋を後にする。ぶつけた額もいたたまれなさも、彼のおかげでほとんどなくなったのは本当だ。
2021/09/14