日はすっかり傾きもう暗くなるという頃。シャイロック、 ムル、ラスティカからプレゼントされたクロエと揃いの服のまま、クロエの部屋の扉をノックする。クロエが好きそうなお茶を買ってきたので一緒にのもうと考えていたのだが、実行する前に西の魔法使いたちから 「ひとりにさせないごっこ」の話を聞いたためすっかり忘れてしまっていた。
バランスを崩さないようトレイを片手で支えて、扉越しに声をかける。開けると、部屋の真ん中には大人がちょうど一人通れそうなサイズの扉があった。きっと魔法で作った空間なのだろう。幕で飾り付けをしてあるため少しかがまないと入れないようになっており、中が薄暗くなっているのも手伝いまるで秘密基地のような雰囲気だ。トレイを机に置いて、入り口からひょっこり中を伺う。そんなに広い作りではないようで、すぐにクロエと目が合った。
「あ、見つかっちゃった。えへへ……ごめんね、賢者様が紅茶をいれてきてくれてる間に」
「ううん、それは全然いいんだけど……ええと、衣裳部屋?」
「うん、衣裳部屋っていうか宝物部屋っていうか……今日一日、みんなと一緒にいて楽しくって、直隈を待ってる間も、ソワソワしちゃって」
「……! さみ……しく、なってた?!」
「あっ……違うよ! えへへ、ありがとう。あまりにも嬉しすぎて今日の思い出全部、この部屋にしまっておきたいなってつい開いちゃったんだ」
首を横に振ったクロエに胸をなでおろした。クロエの誕生日が最高の日になるようにせっかくみんなで計画していたのに、おれが台無しにしてしまったのかと思った。
「俺、本当に幸せなんだなって。みんなが友達になってくれて、たくさん服を作れて、仲間のことを頼ったり、頼られたりして……直隈が紅茶を流れてくれてる間に少しは収めようとしてたんだけど、全然落ち着かなかった」
そう言って抱きしめた帽子は西の国の神殿を復活させたときの衣装だった。そんな彼の立ち姿はさながら絵画のような美しさで、そう思うと入り口に垂れている幕も豪華な額縁に見えてくるし、室内の明かりを受け取ってきらり輝くビジューは星のようだ。クロエの眩さに目を細めると首を傾げられた。
「……なあに?」
「ううん、素敵だなぁって。思い出、たくさん増えたね」
魔法舎に来てからの日々は充実という言葉では足りないぐらい濃密で、その一つ一つが彼にとっての宝物であるならばこんなに嬉しいことはない。
「……その中に、直隈も入ってるんだからね?」
「え? うん、ありがとう……へへ……あー……めっちゃ嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいな……」
「……直隈」
幕の内側から手を差し伸べられる。額縁に手をかけて、彼はおれに笑いかけていた。
「見てほしいんだ、俺の宝物。一緒に見て、直隈に知ってほしい」
誘われるままに手を取ると、いつも手をつなぐときよりもぎゅっと握られる。彼の手と指輪のひんやりとした感触をなぞるように絡めると今度は身体ごと抱きしめられた。
幸せいっぱいという表情の彼につられて破顔する。一歩踏み出した絵画の中は、ワクワクするもので敷き詰められていた。その一つ一つを手に取り思い出を語る彼の活き活きとした表情を見てさらに嬉しくなってしまう。
クロエの語る彼と、友人たちとおれと、素敵なものの話を沢山聞こう。紅茶は冷めてしまうかもしれないけれど、その時は温め直せばいいのだから。渋くなってしまったとしても、それもご愛嬌だ。
2021/11/12