準備3 ケーキ作り

「ど、どう……?」
「……ん、うん。スポンジも膨らんでるしクリームの甘さもちょうどいい」
「やった!」
 スポンジが焼き上がり、デコレーションを終えたケーキをネロが一口。評価が下る瞬間は心臓が飛び出そうだったが、高評価をもらえたことに思わずガッツボーズをした。新しいフォークをもってきて一口食べて、ちょうどいい甘さのクリームに包まれたふわふわのスポンジに顔をほころばせた。生粋の甘いもの好きなオーエンにはきっと物足りないと言われてしまうのだろうけど。
「……やっぱ賢者さんも、明日が待ち遠しいんじゃねえの?」
「……わ、わかっちゃう……?」
 一応みんなの上司的な立場であるので、あまり一人の魔法使いを特別扱いするのはどうなのだろうと思い、そう思われかねないような関わり合いは避けている。いや、そもそも人前で積極的にいちゃいちゃするわけでは決してないんだけど、
 ……ただまあ、特段隠しているわけでもないし賢者の魔法使いの中から恋人を作るのは事実上の 「特別扱い」宣言と変わらないのは確かなので、おれの自己満足に過ぎないかもしれないのだが。
(というか、ケーキはみんなに用意してるにしても、誕生日に合わせてクロエにだけプレゼントを用意してるし……うーん、今更といえば今更かな……)
 それでも任務のときなど、仕事で不公平感を与えるきっかけになることは避けたいので、毎回彼らへ贈る誕生日ケーキの試作品をネロに手伝ってもらう時と同じように、つとめて平静に見えるようにしてたつもりなんだけど。公私の境目がほぼない職場、難しい。
 不安に思っておずおず聞くと、ネロは口角を上げて「まぁね」 と返してきた。
「オレたちの時もケーキ作ってたけどさ、気合の入り方が違うように見える」
「……あの、ネロたちの分も、めっちゃ気合いれて作ったからね。 美味しくなあれって念じながらクリーム作ったしプレートの文字も――」
「あー、うん。それはわかってるって」
 おれがろくろを回し始めたのを、彼は片手を振って制し苦笑した。
「あんたが色々気を回してるのは知ってるよ。でも、好きなヤツの誕生日くらい堂々と贔屓してもいいんじゃないかってオレは思うけどな」
「……」
 他人からそういう言い方をされると、いよいよ恥ずかしくなってきてしまう。おれはネロから視線をうろうろとさまよわせて何と返すか迷った挙句、小さく「うん」とつぶやくような返事をした。