みんながクロエにお祝いの言葉を述べながらブレゼントを渡していく。目隠し用の袋がしわしわになるほど握りしめながらまっていると、ついにおれの番になった。心なしかそわそわしているクロエの前に立ち、今日の日のために準備したものを差し出した。
「クロエ……。……お誕生日、おめでとう」
思わず口から、お店にあるやつみたいに上手くできなかったけど、とか、クロエならもっといいものをもってるだろうけど、とか。そんないらない言葉が口から飛び出そうになるのをぐっとこらえる。今日は祝いの席で主役はクロエで、おれのくだらない自己弁護の言葉はふさわしくない。
おれが、きっとクロエは喜んでくれると思って用意したブレゼントなのだから、自分で下げるようなことを言ってしまうのはプレゼントにとってもあんまりだ。それに、もし喜んでもらえなかったらどうしようなんて不安は、クロエの表情を見た途端にすべて吹き飛んでいってしまった。
「……ありがとう、賢者様」
「……えーと、これは見ての通り花束です。花屋で買ったやつ。……で、こっちの小瓶も花なんだけど、布で作った花、です」
クロエの片手におさまっている小瓶の中には、百円玉ほどの大きさのつまみ細工がニつ入っている。それぞれ花弁の色がオレンジ系と赤系になっており、同じデザインだが色が違うだけで見たときの印象は大きく変わる。
「つまみ細工っていっておれの国にある手芸品なんだけど、ヒースとルチルに聞いたらこっちにも似たようなのがあったからそれを参考にして作ってみました。そのアクセサリーが入ってる小瓶はミチルが見つけてくれたんだ」
後ろには針とキャッチの金具がついており、服はもちろんカバンにもつけることができる。
「なんとなく、クロエってオレンジとかそういうイメージがあって……その色と、あとはいいつも着てる服と同じ赤色で作ってみたんだ。いつもつけてるブローチも素敵だけど、もうちょっと軽装の時とかに合うようなタックピンがあればなって思って……」
説明することも無くなり、いつもはおしゃべりなクロエが何も言わないことにさすがに不安になっできた。うろうろと空中を漂ってはブレゼントに落としていた視線をえいやと上げてみる。
手のひらの小瓶をみつめるすみれ色の瞳はきらきら輝いていて、まるで宝石みたいだと思った。
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