小瓶を大事そうにしまったクロエは花束に目を向けた。花束もタックピンと同じようなテイストで、オレンジと赤を中心にして緑を刺し色にしてもらうように頼んだものだ。ガーベラやバラ、カーネーションなどの花々が締麗に生けられている。
「……あ、」
小さくつぶやいたクロエは、花束に添えてある紙がただのメッセージカードではないことに気が付いた。日本語でクロエと書かれたそれを抜き取り裏返すと、花の形をしたシールが貼られて、隅の方に小さくおれの名前が書いてある。カードではなく封筒だ。文字は読めずとも形状からそれが何なのか察したクロエがばっと顔を上げた。
「これ、手紙……?」
「……う、うん」
彼のために書いたものだから気付いてもらわないと困るのだが、緊張でついどもってしまった。おれが領いたのを見た彼は、小瓶を見つめていたときと同じように瞳を揺らめかせている。喜んでもらえたみたいだ。ほっとして、ただ、後のことを考えるとまた緊張して続きの言葉を伝える。
「えっと……ほんとは中身もこっちの言葉で書ければよかったんだけど、さすがに難しかったから日本語で書いてあります。……·あー今ここで読むのはちょっと、だいぶ恥ずかしいので……後で、部屋に行った時に……読みます」
ちら、とみんなの方を見ながら言えばにやにやとした表情を隠さずこちらを見ている何人かと目が合った。いたたまれなさから視線をクロエに戻すと、彼もつられるように視線をやってから納得するように領きほほ笑んだ
「うん。楽しみにしてるね」
まるで壊れ物でも扱うかのように手紙を抱きしめる彼は本当にうれしそうで。喜んでもらえてうれしいのはもちろんなのだが、先ほどとはまた違う種類の差心が顔をだしてくる。
「……うん! じゃあ、はい。ご飯とケーキ、食べよ!」
それを誤魔化すように、おれは話題を変えた。振り返ると、テーブルの上にはクロエ用の特製ケーキと豪華なディナーが乗っている。魔法舎でそれぞれの誕生日会をやろうということになってから、決まってはケーキを作るのが恒例になっていた。それぞれのメンバーへの日頃の感謝を込めているが、クロエにはまた違った意味を持つ。そして豪華なディナーはネロとカナリアが中心になりみんなで手伝ったものだ。料理の品々がどうぞ食べてと言わんばかりに並んでいる。おれの合図を皮切りに、主にお腹が空かせた面々が待ってましたと言わんばかりにケーキを囲みに行く。
熱くなった頬を冷まそうと手うちわをしていると、後ろから軽い衝撃を感じた。振り返るよりも前に囁かれる。
「ありがとう賢者様。──後で、部屋で待ってるね」
その時絡んだクロエの指は、いつもよりもずっと熱かった。